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<語学コラム>







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第七回:語学は自分の気持ちを相手に伝える器(箱)である

今回は、主題について私が感じていることを、語学上の私の実体験の紹介を交えて見つめてみようと思います。

内容は、中国語を通しての事柄になっていますが、その根底は中国語に限らず、全ての言語で共通したことだと思いますので、語学全般のテーマとさせて貰いました。

私は、技術者で所属する会社では、製品を中国の委託会社で生産すると言う事業形態を取っています。

また、近年は何処の会社も同じですが、部材の現地調達化が進んでおり、委託会社とは別に中国のサプライアともコンタクトを直接取ることが有ります。

今、中国は日本に向いており、こういった日本と取引をする中国の工場は日本人とコンタクトを取る手段として、日本語か英語の出来る工員又は通訳者を抱えているという現状があります。

しかし、現地調達のサプライアの場合は、中国会社同士の取引となるため、中国語でしか会話が出来ないといった現状もあります。

そう言う背景を抱えての体験談となります。


<電子メールでのやり取りで>

実は私の仕事は主に、中国語のライティングが多いんです。 と言っても殆どはメールのやり取りですが。

相手は、日本語の通じる工員がいる会社とのやり取りで、こうした会社とのメールで中国語を書いていたら、一時期、"CC:"で入れていた他の同僚から「中国語で書くな!」って怒られまして。

その後、メールの入れ方に気を使う様になりました。

私は、中国語を仕事の一手段として使っているんです。

他の人は中国語わからないので怒りますが、いくら相手が、英語か日本語の出来る中国人であっても、仕事上の関係で物事を頼む時に、中国人に対して日本人が中国語で書くのと、英語や日本語で書くのでは、その後の動きが違うのを実感として感じます。

正直、私の文法はまだまだめちゃくちゃな部分があります。
語順もだいぶん間違っているし、使うべき単語も間違っている。

だから、メールを出す前や出した後、いつも「この文章で伝わるだろうか?、伝わっただろうか?」 と非常に大きな不安を感じながらも、メールの送信ボタンを押しています。

でも、考えてみるとコミュニケーションってそういうのはあまり関係ないと思うんです。

文章に多少の間違いがあったにせよ、要するに自分の気持ちをどう相手に伝えるかなんです。
語学は単なるその気持ちを伝える箱に過ぎません。

じゃあ、中国人に自分の気持ちを伝えたいなら、やはり中国語でしょう。

私が、つたない中国語で依頼を出すと、生き生きとした嬉しそうな中国語の文章で私がほしかった資料を添付して送ってきてくれます。しかも返事が非常に早いです。

中国語を勉強する前は、この様な好反応は無かったと思います。

これは、日本人がわざわざ中国語を勉強して、少しおかしな文章でも一生懸命書いてお願いしている、という気持ちが伝わっているのだと思います。

私は、仕事上はこの反応に結構やみつきになっていて、難しい内容の時やどうしても"CC:"で日本人を入れないといけない時は、日本語や英語を使いますが、それ以外は出来るだけ日本人への"CC:" を入れずに、相手に中国語で書く様にしています。

もう一つ追記するならば、通常他の社員は、日本語の出来る担当者宛にメールを出しますが、私の場合は、特に中国語で書く場合は、日本語は出来ないが重要な関わりを持っていると思われる担当者宛へも配信先指定をして送信しています。

また更に、委託先工場から現地部材メーカーへ問い合わせが発生する時に、私のメールがそのまま転送の形で、委託先工場から見た顧客(私)の生の要求を伝えている事もあります。

これにより、自分の要求する事項の相手への伝達速度が加速している事は言うまでもありません。


<中国語でのフォローレターの効果>

中国語のフォローレターは、相当の確率で中国人が動いてくれます。
他の同僚にはこれ分かっていない人多いと思いますが、私の部下は次の一件で相当驚いてました。

部下の仕事上、どうしても必用な部品のある資料が"as soon as possible"でほしい状態だったときでした。これは、委託工場ではなくその先の現地部品メーカーとのやりとりです。

私の部下は、英語しかできないので、私が「とにかく英語でも良いから依頼を出せ!」と言いました。

で彼、頑張って英語のレターを書いて出しました。

私は以前にその取引先の中国人とは面識があったので、彼が出した英語のレターの送信直後に、中国語のフォローレターを出しました。

書いた内容は非常に簡単なもので、以下のフォローレターなのです。
日付を見ると現時点で1年前の事です。

( ) 内は、文章の意訳です。固有名詞等は、実在のものから伏せさせて貰っています。

=====(Thu, 19 Feb 2009)=========================================
李克信先生           (李克信殿)

你好               (こんにちは)
我是砂野在○○的△△集团。(○○会社○○グループの砂野です。)
好久不见了。         (久しぶりです。) 

山田的要求很重要的。   (山田の要求はとても重要なのです。)
这些是○○法式资料的。  (これらは○○会社の形式の資料になります。)
我们要有最很快啊。    (私たちは、入手をとても急いでいます。)

不好意思,快一块回信到二月二十六号呢。
                 (申し訳ありませんが、2月26日までに急いで返信して貰えませんか?)

谢谢您             (宜しくお願いします。)
=====(一部名称など伏せさせて貰ってます)==========================
(今改めて見てみると、間違った文が有りますわ。(汗;))

実は通常だと1週間は返答にかかるかもと予想していた程のボリュームのある要求なのですが、その予測に反して、なんと次の日に全ての資料を揃えて添付して返信のレターが部下に入ったそうで、さすがに私の部下はびっくりしてました。

もっとも、資料の書き方を、以前から指導してきていると言うのもその要素に入っているとは思いますが。このフォローが確実に影響を受けている話だと思います。


<中国委託先工場に出張したときのこと>

私は同じ工場に2度出張しています。1回目の時は中国語を学習する前でした。2回目は中国語を学習始めたばかりの時でした。だから2回目の時は、片言喋れるだけ状態でした。

出張はいずれも生産品の技術指導で製品の組立をラインでどう流すか、検査はどうするか、検査の結果の判断で悩む部分についてOK・NGをどう判断するのか等多岐に渡る指導をこなしました。

中国語を学習していないときに1回目の出張に行って、その時は全て現地の通訳を介して指導を行ったのですが、細かい所で中々自分の思う通りにはならないもどかしさがありました

2回目の時は、片言の中国語を覚えていたので相手の言っている全てのことを理解するのは難しいので通訳を介しますが、相手の質問に「没问题」とか「不是」とか答えるだけでも、返答は通訳を介さずに工員に伝わるので、私の一言で工員達は散開し動き始めます。だから仕事の進みが早いのを感じました。

中には、「这个办法错的。本来,这个。。。」とか言いながら、目の前で手を動かしてどう作業するのか作業をやって見せて説明したことも。

こうすると、相手の理解は早いです。 結構思い通りの作業を覚えてくれます。
片言だけでもこれだけ差が出てくるのを感じました。

中国語に限らず、ビジネスの出張では最低限自分がぶち当たりそうな場面を想定して、その部分の自分の回答を現地の言葉で作文して覚えておくのも良いかも知れません。


<2回目の出張の時の出来事>

2回目の出張の時、中国語を使う事での爽快感は前述の通りですが、実はそれ以外に感動した場面がありましたので、紹介します。

それは、このときの出張で一通りやるべき仕事が終わった後での話でした。
通訳の人が私の所に来て、「実は、仕事が終わった後スタッフの人を集めて日本語の練習を始めてるんです。それで、その成果を見て貰いたいので聴いて貰えますか?」
ということでした。

10人程の男女でしたか、暗くなった製造ラインの片隅で、積み上げられたパレットに座って、1人ずつ立ち上がって、私の前に来て、彼らは、簡単な自己紹介をしてくれました。

所属と名前、何を担当しているか。

それで、私も返答のつもりで、私からも自己紹介しました。名前、社名と部署、あとプライベートな事で家族の事とかを中国語で。

その後で、通訳の人が私の言った中国語を日本語で彼らに説明していました。

それは何とも言えない、不思議な光景に思えたので今でも鮮明に覚えています。
恐らく、仕事中に私が中国語を使っていたのを側でずーっと聴いていましたので、「語学」という同じ目的の中で、そういう状況が生まれたのだと思います。

仕事外ではありましたが、その時、言葉では言い表せない程の一体感を味わいました。
「私も、同じ仲間だな(仕事においても、語学においても)」と思いました。


<日本に来社した中国人との打合せで>

結構、初対面というのは重要で、その時の印象は引きずるのでしょう。
特に相手が日本や英語が出来ても初対面一発目に、中国語を出しておくと
その後、日本語や英語でやり取りしてもOKで、やはり動きが違います。

相手が来社したときは特に良い感じの打合せが出来ます。
最初の名刺交換の時に

初次见面。我是技术部门的砂野。请多关照。
        (はじめまして、技術部の砂野です。よろしくお願いします。)

で挨拶しておくと、その後は英語で話しを進めても和やかに打合せが進みます。
打合せ前に、中国語で話しても良いか?と聴かれた日にはヒヤッとしましたが。
低調に英語でお願いしますと英語で言いました。(爆)
中国人も本気ではなかったと思います、爆笑してましたから。


<公文書の翻訳で>

ちょっと大変だった事があります。

同じチームの同僚から他の部署で書かれた公文書と同一用途の文書を出す必用があり、その貰っている中国語の文書が紙に印刷された物だったので、ワードにインプットして欲しいと言う要望を貰いました。
同じチームなので私が中国語出来るの知っているんです。

で、その文書を見せて貰ったのですが、私読んでて全然理解できないんです。

おかしいなあって思ってよーく見ていると、日本語の漢字で書かれているのと、書いてあることがめちゃくちゃでした。

その後、日本語の原文があると言うことでそれも貰って、原文の日本語を見ると内容がやっと理解出来ましたが、翻訳された中国語は日本語の単語1つ1つをそのまま直訳して並べ替えたような文章だったんです。

思わず、私は「これはググったか? それともエキサイトか?」と思いました。 (爆)

しょうがないので、最初から全部翻訳し直すことにしました。

正式なレターを書く場面に於いては、日本語の形式と、中国語の形式はまるで違うと言う文化的相違まで自動翻訳のAIは発達してないです。

(中国語と英語の相性は良くて結構分かる英語に変換されるとの情報もありましたが、私が実際にやってみた限りでは、中国語の漢字に濃縮された意味と、英単語は1対1にはならないのでやはりおかしいです。日本語よりはマシですが。)

私は、この翻訳をするときに、形式が違うと言うことは以前に中国語の教室で個人レターの書き方を教わっていましたので、直ぐに最初の中国語文書の内容がおかしいことに気づきました。

その後、個人レターと会社同士のレターではどう違うかが分からなかったので、直ぐに中国語の先生に電話してどう書けばいいか教わりました。

また、さすがに公文書となると私も不安なので、いろんな複数の中国人に文章を見て貰いました。
内容が専門的な話なので中国人も人によっては難しかったみたいですが。
その後、日本にいる中国人にも添削、見て貰いました。

ちなみに、このときに知った私の翻訳ミスに付いては中国語特別コラムの第一回のネタにもなっています。

ここで私が学んだことは、「自動翻訳に頼っても自分の気持ちは伝わらない」と言うことです。

明らかに自動翻訳と分かるような文書では、同じ中国語?で書いてあっても、それを見破られるだけでそこにその人の気持ちは乗らないです。

でも、多少変であっても自分で考えて書いた文章は、その苦労は伝わると思います。
これは、特に日本語や他の外国語を喋れる中国人にはよく伝わります。

実は、彼らも日本語や他の外国語を覚えるのに痛みを味わっているから。


<電話でのショート会話>


私には、いつも一緒に仕事をする中国人女性がいます。
中国の委託先工場の人です。当然?日本語は達者です。

彼女は分からないことが有ると誰彼構わず電話で問い合わせしてくる人です。
が、通常は他の人とは業務連絡的な内容になっているのではないかと他の会話から想像が付きます。

でも、私に電話をかけてくる時は、違います。
私の会社は個人のIP電話をあててますので、ダイレクトにかかってきますが、彼女の使う電話番号は登録しているので、直ぐに彼女からかかってきたことが分かります。

私が電話を取っていきなり「喂,你好!(もしもし、こんにちは)」と言いますが、
相手も「喂,你好!,最近怎么样?(もしもし、こんにちは、最近どうですか?)」と返してきます。

その後も1~2分程度そのまま笑いながら中国語の会話が続いてしまいます。
で、本題に入っていきますが、彼女は日本語で喋り始めます。込み入った内容なので日本語です。

そう、彼女はちゃんと私のレベルを理解して喋っているのですね。
でも、このショート会話は、お互いの気分が良くなった状態でその後の本題に続きますから、調整事も旨く運んでいくんですね。潤滑油になっているんです。


以上、いくつかの体験談を話しましたが、ここで一貫して言えることは、主題の通りです。

大切なのは、自分がコミュニケーションとして使うための器(箱)をまず持つこと。

器の大きさは、自分の今の能力でもてる最低限の大きさで構わない。
ここでは、言語(英語、中国語、その他)という器と言うことになるでしょう。
多少器が変形していても大丈夫です。

そして、その自分で用意した器に乗せれるだけの気持ちを乗せて、送り出すこと。

それが出来たとき、その成果は勝手に出てきます
私は、これが語学の醍醐味だと思います。

日本のことわざ:「郷に入っては郷に従え」


(2010/05/22記)